光励起直後から始まる溶媒和過程および化学反応過程はその終了、つまり励起状態での平衡状態にまで到達するのに有限の時間を必要とする過程であると考えると、その際に重要な点の一つとして、光励起後の溶質分子の電子状態の時間依存変化に溶媒分子が断熱的に追随するとするケース以外に、光励起後の溶質分子の電子状態の緩和のタイムスケールに比べて溶媒の緩和のタイムスケールが同じぐらいである場合、またはより遅い場合のケースがあることが考えられる。これらに関連して、特に励起後において溶質分子の構造変化が起こる場合にはこのタイムスケールに関する議論として溶媒和過程と相関した電子状態の変化の方が構造変化よりも早くおこり、その反応過程を支配するほどに大きく変化するのか否かという点が挙げられ、これは検証を要する点である。本研究課題において研究代表者は溶液内光励起反応過程としての分子内電子移動過程の研究を通じて提案された方法論(時間依存RISM-SCF法)がその反応過程の記述に関して有効であることを示した。また、短時間領域でおこる分子内電子移動反応過程を静電ポテンシャルの時間依存解析から詳細に考察することで溶媒分子の短時間領域での運動が電子移動を引き起こす要因である事を明らかにした。加えて、時間依存RISM-SCF法を用いて溶質分子の電子状態に関する時間依存変化を追跡し、溶液内色素分子の光励起後の反応プロセスの分子内電子移動反応の研究を行った。また、分子内電子移動反応を引き起こす駆動力としての溶媒和ダイナミックスと相関した溶質の電子状態の時間変化と構造変化との関係についての考察を行った。
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