本研究計画の目的は大強度陽子加速器 J-PAEC で行なわれる中性 K 中間子実験で性能を発揮する光子・中性子複合検出器を開発することである。 中性K中間子が中性パイ中間子と二つのニュートリノに崩壊する過程の研究はフレーバー物理において最も重要な課題の一つである。この過程の発生確率を測定し、小林益川理論を礎とする現在の素粒子標準模型との比較をおこなうことで、標準理論を越える新しい物理の知見を得られる。1000億回に一度程度しか起こらない非常に稀な現象のため、信号事象とバックグラウンド事象の確実な分離が実験の鍵となる。本研究では、バックグラウンドを適切に排除する光子検出器であると同時に最大のバックグラウンド源であるハロー中性子を実験中に常時モニターできる検出器を開発することを目的としている。 今年度は純ヨウ化セシウム結晶シンチレータと波長変換ファイバーを組み合わせた検出器を考案し、その基礎テストをおこなった。検出器デザインの最適化、特に使用する波長変換ファイバーの選択、および、純ヨウ化セシウムとの光学的接触の最適化をおこなった。異なる吸収スペクトラムを持ち、かつ、形状も異なる複数種類の波長変換ファイバーによって読み出し試験をおこない、検出光量を指標に評価をおこなった。発光量そのものに加え、実用レベルで必要とされる長さのファイバーを使用したときの自己再吸収による減衰長の影響も考慮し、使用ファイバー、および、反射材を選定した。この結果をもとにした試作機を製作し、ベータ線源、宇宙線、600Mev 電子ビーム、などで実測をおこない、十分な性能を得られることを実証した。 実測実験と並行して、中性K中間子実験で必要とされる性能をシミュレーションによって評価した。また、そのレベルに達するための解析方法を開発し、実際に使用する検出器デザインに反映する枠組みを作り上げることができた。
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