本研究計画の目的は大強度陽子加速器J-PARCで行なわれる中性K中間子実験で性能を発揮する光子・中性子複合検出器を開発することである。光子検出器であると同時に中性子を測定でき、実験中に常時中性子量をモニターできる検出器を開発することを目的としている。研究は本課題申請当時の所属機関(京都大学)の大学院生と共に遂行した。 平成21年度の成果は(1) 基礎開発の継続、(2) 実用機製作、(3) 試用による性能評価、に分類される。 (1) ファイバーなどの検出器構成の最適化 純ヨウ化セシウム結晶シンチレータと前年度に選別した波長変換ファイバーの組み合わせに加え、ファイバーの本数や反射材の材質など最適化を行なった。また、奥行き方向に結晶を3分割して別々のファイバーで読み出す基礎モジュールを製作し、6月に東北大学電子光理学研究センター(当時、原子核理学研究施設)の電子ビームを利用して評価実験をおこなった。検出光量、入射位置毎の光量一様性、時間分解能など、基本性能を満たすことを確認した。 (2) プロトタイプ検出器の製作 基礎モジュールを3x3の行列状に積み上げた実用機の製作を行なった。これは光子と中性子の識別方式の試験を可能とする基本構成にあたる。9台の基礎モジュールの製作と個別試験を経た後、光を遮蔽する暗箱内に積み上げてプロトタイプ検出器(重量約100kg)とした。ファイバーからの光は通常の光電子増倍管の他、マルチアノード光電子増倍管を併用し、コストの最適化も図った。 (3) 中性ビームラインでの試用 J-PARCハドロン実験施設に建設された中性ビームライン(KLライン)のビーム調査実験で試用をし、光子、中性子に対するレスポンスを確認した。12月に設置し、データ収集は平成22年2月まで断続的に続けられた。光子は奥行き方向第一層に強い出力がある一方、中性子は複数層にまたがって出力しやすいという特有のパターンを観測することに成功した。詳細の解析は継続している。
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