大強度陽子加速器を用いたニュートリノ振動実験(T2K実験)で実験感度を向上させてCP対称性の破れの探索を行うために陽子ビーム強度を増強するのに必要なビーム窓の開発研究を行った。 ビーム窓とは真空容器や圧力容器の一部で陽子ビームを通過させる部分で、ビームの通過効率を確保し、かつビーム通過による発熱を最小限にするため、気密性と耐圧性を確保できる範囲でできるだけ薄い膜を使用する。T2K実験では陽子と反応してニュートリノの親粒子を発生させる黒鉛標的は冷却のためヘリウムガス(2気圧)の圧力容器内に設置されているので、圧力容器に陽子ビームを導入する箇所にチタン合金の膜によるビーム窓を使用している。 ビーム強度を増強するには標的の冷却効率の向上が不可欠で、ヘリウムガス圧力を9気圧程度まで上げることになる。それに伴ってビーム膜の耐圧の向上が必要になる。一方でビーム窓の発熱も増大するので、冷却効率の観点からより薄肉にする必要がある。そのため、薄肉のチタン膜を多層化して、層ごとにヘリウムガスの圧力差をつけた新しいビーム窓の開発を行った。 平成20年度には、有限要素法による構造解析シミュレーションを行うための計算機環境を整備して、ガスの圧力によって多層膜ビーム窓に生じる応力やガスの流れによりビーム窓の冷却を算出して、それに基づいた構造設計をすすめた。また、層ごとに圧力差をつけてヘリウムガスを流す構造を検証する試験を平成21年度に計画しているが、そのためのヘリウムガスの圧力・流量制御系の設計・構築をすすめた。
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