大型光学赤外線望遠鏡で必要となる極限的性能をもつ光学素子を、国立天文台で稼働中のイオンビームスパッタ装置を活用して開発することが本研究の目的である。イオンビームスパッタ法は成膜スピードが遅いのが欠点であるが、その特徴を逆に利用すれば膜厚を精密にコントロールできるため、高機能な誘電体多層膜が製作できる。特にレンズ等、透過で使う光学素子にコートされる広帯域反射防止膜の成膜には、この方法が適している。光学薄膜の最適設計には薄膜計算ソフトを使うが、その準備として、屈折率分散の情報を得ることが必要である。光学薄膜の特性は光学膜厚で決まるが、その算出に関係するからである。分光光度計による単一の測定で屈折率分散や吸収を求めることは困難であり、実際に使用する成膜装置を使って何十種類もの光学薄膜サンプルを製作し、それを測定することによって屈折率分散を求める。その過程では、膜厚計による物理的膜厚測定、エリプソメータによる屈折率測定の情報も利用して、簡単な測定で屈折率分散を決める手法を確立しておくのが良い。 今年度は、これまでに蓄積してきた屈折率の情報を整理し、何種類かの反射防止膜をテストした。イオンビームスパッタ装置は順調に稼動しており、最適成膜条件を実現することが可能な状態にある。数十層の薄膜プロセスを行うためには、長時間にわたり装置を安定に運転することが必須であるが、これについても目処がたっている。
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