コバルトドープ二酸化チタンは、室温よりはるかに高いキュリー温度を持つ強磁性半導体である。したがって、室温で利用できる半導体スピントロニクス材料の有力候補として注目されている。半導体の性質を持つため、キャリア濃度を増減させることにより、強磁性の制御が原理的に可能である。しかしながら、化学ドーピングによる強磁性の制御は実証済みであるが、電界ドーピングによる強磁性の制御は未だなされていない。本研究の最終的な目的は電界ドーピングによるコバルトドープ二酸化チタン室温強磁性の制御である。まず、電界効果トランジスタ構造を作製するのに適しているスパッタ法での薄膜作製に取り組んだ。その結果、ルチル構造を持つコバルトドープ二酸化チタンの薄膜をスパッタ法で作製することに成功した。そして、強磁性半導体の指標である異常ホール効果および磁気光学効果の観測に初めて成功した。今までスパッタ法による薄膜の明瞭な室温強磁性半導体の性質を示す報告はなかったが、スパッタ法で十分な特性を示す薄膜をガラス基板上にも作製可能であることを実証した。この結果は、磁気光学応用を目指した磁気光学特性に関する共同研究へと発展した。続いて、パルスレーザー堆積法で作製したアナターゼ構造を持つコバルトドープ二酸化チタンの室温強磁性の電界効果に取り組んだ。強電界の印加が容易にできることが知られている電気二重層トランジスタにより電界を印加することにより、初めて強磁性半導体の室温強磁性を電界効果で制御することに成功した。これによって、半導体スピントロニクスの室温動作の可能性が開かれた。
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