本研究においては、ジアリールエテンをはじめとするフォトクロミック色素をペプチド鎖に導入し、生体分子間相互作用の光制御、さらにはそこから派生する協調的生体内連鎖反応のメカニカル制御を目指す。 フォトクロミック色素の中でも極めて高い光安定性を示すジアリールエテンを骨格とするクロスリンク剤を開発し、これを用いて架橋ヘリカルペプチドを合成した。架橋直後においては、ジアリールエテン骨格は開環構造(無色)をとっており、架橋ペプチドは安定なα-ヘリックス構造を形成している。ここに紫外光を照射すると、ジアリールエテン骨格は開環構造(着色)へと異性化し、それに伴ってヘリックス構造は不安定化した。可視光を照射するとジアリールエテン骨格は開環構造へと異性化し、安定なヘリックス構造へ戻った。この光によるスイッチングは、ほとんど劣化することなく繰り返し行うことができた。 この結果を踏まえて、DNA結合タンパクであるQ50Kの結合ドメイン(ヘリックス領域)をもとにジアリールエテン架橋ペプチドを作成し、DNAとの相互作用の光による制御を試みた。ゲル電気泳動によって相互作用の評価を行ったところ、架橋ペプチド(閉環構造)とDNAを混ぜるとDNA由来のバンドが減少し、DNAとの会合体由来のバンドが観測された。一方、非架橋ペプチドや架橋ペプチド(開環構造)を加えた場合、DNA由来のバンドはほとんど変化せず、新たなバンドも観測されなかった。以上の結果から、ジアリールエテンのフォトクロミズムをトリガーとして、生体分子間の相互作用を光制御できる道筋が示された。
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