光合成微生物が持つ光感知タンパク質の光反応中心として利用されているフォトクロミック分子であるクマル酸類を縮合重合して得られる主鎖型フォトポリマーの重合方法論を開発した。これらの高分子は全繰り返し単位主鎖中に連続的に光反応性基を有し、かつ剛直であるために光反応はそのまま物質の密度変化に影響を及ぼすと考えられる。そこで、平成20年度はクマル酸に特異的なE-Z異性化や[2+2]付加環化反応を、分子鎖間配列形態でコントロールし、連続的に起こる光反応を利用して光メカニカルシステムを確立することを目的として研究をすすめた。まずメタヒドロキシ桂皮酸およびカフェ酸を重合し、光反応性連続構造を持つ高分子を得た。分子量は25000程度であった。しかし、ポリカフェ酸に関しては分子量が5000000を超える超高分子量体が含まれることが分かった。これらは何れもトリフルオロ酢酸に溶解することが分かったので、キャスト法によりフィルムを作成した結果、透明なフィルムが得られた。そこで光変形挙動を調べた。ポリ(m-クマル酸)フィルムは高圧水銀灯照射により照射方向に対して反対側に屈曲した。これは、非晶性のフィルムであり、分子鎖間におけるπ電子の重なりが無く、E-Z異性化がフィルム表面で効率的に起こったことに依ると考えられる。一方、ポリカフェ酸のフィルムは照射方向に屈曲した。これは高分岐構造のために分子鎖同士が接する機会が増加し、二量化が起こる割合が増加したことに依ると考えられる。光変形により生じた力は10μN程度であり、プラスチックフィルムにおいて光を力学エネルギーへと直接変換するシステムを初めて開発したことになる。
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