研究概要 |
本研究はI型クラスレートにおける非中心位置におけるゲスト原子の微視的運動状態を解明することである。本年度は従来研究してきたR_8Ga_<16>Ge_<30>(R=Sr, Eu)に加えて, カゴの大きさを制御した混晶系Sr_8Ga_<16>Si_<30-x>Ge_xを取り上げた。その結果, Ge置換してカゴの大きさを大きくすると中心からのズレは増大し, 格子熱伝導率と明瞭な相関が有ることを実証した。これにより, 1995年にSlackによって提唱されたラットリング運動が非中心位置でのゲスト原子の回転運動であることを初めて明らかにした。この結果は毎日新聞, 中国新聞, 科学新聞に掲載された。また, Eu_8Ga_<16>Ge_<30>より大きなカゴを持つBa_8Ga_<16>Sn_<30>のラマン散乱を行い, これまでのGe結晶の場合に比べてゲスト原子の振動数が大きく低下し, 回転半径の大きな非中心ラットリング運動を行うことを明らかにした。以上より, I型クラスレートにおいては非中心位置におけるラットリング運動が普遍的な現象であり, 格子の熱伝導抑制にこのラットリング運動が重要であることも確立した。また, Ba_8Ga_<16>Sn_<30>ではR_8Ga_<16>Ge_<30>に比べてゲスト原子の振動が大きな非調和性を持つことも明らかにした。 上の結果とは別に, 高温での回転ラットリング運動が, 低温で量子トンネル状態に移行するかどうかを明らかにするために, 低温でのゲスト原子の運動状態をラマン散乱で測定した。分解能が不十分ではあるが, 量子トンネル状態に特有と考えられるスペクトルピークの分裂が観測され, 低温で量子トンネル状態にあることが結論できた。
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