研究概要 |
高い熱電効率を持つ物質を開発する指針を得ることおよび, 多様な電子物性を持つ低次元強相関有機伝導体を熱電材料として利用する可能性を探るために, τ型と呼ばれる結晶構造を持つ一連の擬二次元有機伝導体の熱電性能指数の評価を開始した. 平成20年度の研究では, τ-(D)_2(X)_<1+y> (D=EDO-S,S-DMEDT-TTF, P-S, S-DMEDT-TTF ; X=AuBr_2, AuCl_2, AuI_2)について, 電気抵抗率, 熱電能, 熱伝導度の温度依存性を常圧, 78K-300Kにおいて測定し, 無次元熱電性能指数ZTを決定した。有機ドナー分子EDO-S, S-DMEDT-TTFの塩は, 約150KにおいてZTの最大値を持ち, AuBr2塩では有機結晶中で最大の0.042という値を示すことを見いだした. また, このドナーの塩の熱電能は, 陰イオンが小さくなるほど絶対値が大きくなることがわかった. 一方, P-S, S-DMEDT-TTFの塩では, 熱電能は前者と同程度であるにもかかわらず. のZTは最高で2.3×10^<-4>と前者に比べて2桁も小さいことがわかった. 平成20年度に得られた結果から, ZTはドナーによる変化が大きく, 同じドナーの塩の中では小さい陰イオンのものほど熱電能が大きくなる, という傾向があることがわかった. 測定方法の改良点として, 熱伝導度の測定結果に対する真空度の影響が予想よりも大きく, より正確にZT7を決定するために真空度に応じた補正を行う必要が明らかになった. 一方, 定常比較法における試料とサーマルアンカーの接続に用いる金線の直径の影響は比較的小さく, 断面積が0.05m×0.02mm程度の有機伝導体試料に対しては, 直径0.05mmの金線で十分であることがわかった.
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