研究概要 |
フラストレーション系においては、相互作用のせめぎ合いの結果、スピンカイラリティーが有限の非共面な磁気構造がしばしば生じる。そのような系では、電子はスピンカイラリティーに比例する仮想的な磁場を感じる。近年、このスピンカイラリティーが作る仮想磁場による異常な異常ホール効果が注目を集めている。本研究ではスピンカイラリティーを示す物質を開拓し、ホール効果の高周波版である磁気光学効果においてスピンカイラリティー誘起の影響を調べることを目的とする。本年度は、スピンカイラリティー誘起の異常ホール効果を示す(Nd, Ca)2(Mo, Nb)2O7における磁気光学効果の測定を行った。Nd2Mo2O7においては、縦の光学伝導度、カー回転角、カー楕円率スペクトルより得られたホール伝導度スペクトルに中赤外領域(〜0.3eV)にブロードなバンドを観測した。Nb置換するとそのバンドが徐々に高エネルギーにシフトしていき、Ca置換すると低エネルギーにシフトする様子が観測された。そのシフトエネルギーは、Nb置換は電子ドープ、Ca置換はホールドープしていると仮定した場合のバンド計算から期待される化学ポテンシャルのシフトと一致している。このような観測結果は、バンド交差点をもつバンド電子系におけるホール伝導度スペクトルの理論的計算と一致しており、スピンカイラリティー誘起ホール伝導の特徴であるバンド交差点遷移近傍の大きな増大が有限エネルギーで観測されたものであることを示唆している。
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