ハイパ二カゴメ格子構造を持つNa_4Ir_3O_8は三次元スピンネットワークを持つ物質で初めて量子スピン液体挙動を示す物質である。この物質は単結晶育成のプロセスでナトリウムが欠損し、量子スピン液体相に隣接する金属相という状態が存在することが明らかとなってきた。高輝度放射光を用いた高分解能単結晶構造解析により、ナトリウム欠損量を定量化することに成功し、極低温領域の比熱測定からこの金属相とスピン液体相の電子状態が比較的連続的に接続されていることを見出した。 実験技術的成果として、これまで常磁性状態におけるスピン相関の波数依存性は中性子散乱によってしか測定できなかった。この手法は1cm級の巨大単結晶を必要とし、かつ中性子吸収元素に対しては適用されない欠点を持つ。我々は0.3mm程度のSr_2IrO_4単結晶を用いた共鳴磁気X線散乱法により、常磁性領域における磁気散漫散乱の観測に成功した。この結果、面内磁気相関は面間相関と比較してはるかに高温から成長が始まり、三次元的磁気秩序温度直上になって初めて面間相関が急激に成長することを明らかにした。面内磁気相関長の温度変化から反強磁性結合定数定数Jの定量化に成功した。さらにその後、幾何学的フラストレーションを有するイリジウムパイロクロアにおいても磁気散漫散乱の観測に成功し、これまで全く分かっていなかった、イリジウムパイロクロア系の磁気相関関数をあきらかにすることに成功した。
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