フラストレート系では非自明な磁気秩序の出現に伴い、しばしば磁気構造に由来する新規異常ホール効果非が出現する。その代表例はパイロクロ化合物Nd2Mo207である。この物質はMoサイトの遍歴4d電子が90K以下で遍歴共時性転移を示し、さらに30K以下でNdサイトの局在4f電子がスピンアイス秩序を示す。その際、NdサイトがMoサイトに及ぼすキャントした交換磁場により、従来の異常ホール効果の枠内では理解できない挙動が観測される。その理論的説明として、スピンカイラリティー理論が提唱されたが、理論値は実験値の1/100のに過ぎず、長年理解不可能であった。 我々は2tg軌道強束縛模型に基づき、この問題におけるd軌道自由度の役割を解析した。一般に磁気秩序がnon-collinearであるとき、「軌道ベリー位相」を有効磁場とする非従来型の異常ホール効果が出現し、Nd2Mo207の実験結果を良く再現することがわかった。本機構はパイロクロア化合物にとどまらず、様々な多軌道フラストレート系における実現が期待される。
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