研究概要 |
パイロクロア結晶構造を持つ遍歴強磁性金属Nd2Mo2O7における非従来型異常ホール効果について研究し、そのメカニズムを解明した。この物質では、低温でNdサイトの局在f電子がスピンアイス秩序と呼ばれる互いに傾いたスピン配置を示し、d-f交換相互作用の結果、金属伝導を担うMoの4d電子のスピンが角度θだけ傾いた「傾いた強磁性状態」が実現する。このとき出現する顕著な異常ホール効果は、巨視的磁化に比例する従来型の異常ホール効果では到底説明できず、「微視的スピン構造がもたらす非従来型里常ホール効果」として注目を集めてきた。その起源として、スピンカイラリティー機構が提唱されて注目を集めたが、実験の定量的説明には至らなかった。 その説明として、申請者は軌道Aharonov-Bohm効果の理論を提唱した[T.Tomizawa and H.Kontani. Phvs. Rev. B 80, 100401(R) (2009) ; Editor's suggestion]。軌道自由度を考慮すると、カゴメ格子上の三角形の経路を電子が一周する際に、各Moサイ下で原子軌道の位相差に由来する、θに比例するベリー位相因子を獲得することがわかる。このベリー位相は、経路中を貫ぬく有効磁場の働き昂するため、雷子は外部電場と垂直方向にドリフト運動する。その結果、θに線形め顕著な異常ホール効果が出現ずる。Nd2Mo2O7ではθ≪1であるごとから、スピンカイラリティー機構よりも軌道機構が重要である。このようにして、10年来の謎であったNd2Mo2O7における非従来型異常ホール効果は、申請者の提唱する軌道機構として定量的に理解できることが明らかになった。
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