研究概要 |
隣接スピン間スピン間で磁気相互作用が競合する幾何学的スピンフラストレーション系は新しい磁気状態の発現に興味がもたれている。本研究では、理想的なハイゼンベルグスピン系である有機ラジカルを用いた反強磁性三角格子のスピン状態の解明を目指した実験的研究を行う。初年度である本年は、ニトロニルニトロキシドのトリラジカルTNNおよびその類縁化合物の結晶構造と磁化について検討した。これらの化合物はアセトニトリルを結晶溶媒として含む良質結晶を与え、TNN分子は結晶中でも三回対称性を持つことを明らかにした。ラジカル部位を1, 2, 3個イミノニトロキシドで置換したBNN, BIMTIMも同形晶を取ることを明らかにした。いずれの化合物もab面内に二次元三角格子を形成する。その三角格子の格子点には分子が位置している。さらにニトロニルニトロキシドラジカル間にはab面間の接近も見られた。つまり、TNNは三次元格子を形成するのに対し、TIMは二次元的なネットワーク構造をとっている。分子内相互作用と分子間相互作用を分離して決定するために溶液の磁化測定を行った。ニトロニルニトロキシド間の分子内磁気相互作用は2J/k_B=6Kであるのに対し、イミノニトロキシド間の相互作用はその1/3程度と小さいことを明らかにした。結晶の静磁化率挙動から、分子間相互作用の総和を平均場近似で見積もると、TIMの分子間相互作用は他の化合物の約半分と小さいことが明らかとなった。ラジカル種の違いによるネットワークパスの減少と関連付けられる。
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