本年度は、空間的異方性のあるフラストレートした2次元量子スピン系に関して、磁場中での動的構造因子の振る舞いを調べるために、まずそのもととなる1次元系の動的性質を、厳密解を用いて精密に調べた。総和則に注目した解析を行った結果、これまでの標準的な理解では不十分であることが判明し、その不足分はストリング解と呼ばれる特殊な厳密解を考慮することによってほぼ説明できることがわかった。ストリング解を含む厳密解を用いた詳細な解析の結果、磁場中の量子スピン鎖の動的性質の全体像が明らかになり、これまで知られていた準粒子(プサイノンと反プサイノン)以外に、ストリングを担う準粒子も磁場中の動的性質に重要な役割を果たすことがわかった。この研究によって、長年謎であった量子スピン鎖における高エネルギーの連続スペクトルの起源を明らかにすることができた。この研究成果は、2009年1月に出版されたPhysical Review Letters誌に掲載された。 また、量子スピン鎖の磁場中での動的構造因子の結果をもとにして、鎖間結合が弱い2次元量子スピン系の動的性質を調べた。その結果、1次元の準粒子であるプサイノン、反プサイノン、ストリングを担う準粒子が鎖間交換プロセスを通じて相互作用し、波数領域に応じてインコヒーレントなスペクトルや結合状態を示すことが明らかになった。これらの研究成果は、2008年9月にドイツのブラウンシュバイクで行われた国際会議Highly Frustrated Magnetism 2008(HFM 2008)で発表し、プロシーディングスとしても出版された。
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