近年、単層カーボンナノチューブを新しい光学材料として応用することが検討されている。しかし、当初報告された発光量子効率は低く、光機能性材料として十分ではない。光学材料への応用を考えると、発光量子効率が何で決まっているかを明らかにし、またその量子効率を何らかの方法で上げることが最重要課題であると言える。本研究では、カーボンナノチューブの発光量子効率が実際にどのくらいの値であるのか、また何がそれを律則しているのかという、ナノチューブの基礎物理をまず明らかにする。さらに、ナノプラズモニクス技術を利用し、ナノチューブの発光効率の向上を目指し、新しい光機能性を探索することを目的として研究を行った。 本年度は、カーボンナノチューブの発光量子効率を律則している要因の一つであるナノチューブの長さの効果を調べた。その結果、長さの異なるナノチューブからの相対発光強度を調べ、長さが短くなるほど発光強度が低下することが明らかとなった。これは、光励起によって励起子が拡散し、ナノチューブ端に到達することで非輻射再結合が生じるためであると考えられる。ここから、DNAでラップされたナノチューブにおける励起子拡散距離が50nm程度であることがわかった。一方で、実験結果から外装される無限長の長さをもつナノチューブにおいても励起子輻射寿命より発光寿命は短く、端だけでなく内部での非輻射センターも発光量子効率に大きく影響していることがわかった。さらに、表面凹凸を有するラフな金属基板にカーボンナノチューブを分散させ、プラズモン共鳴が関与した発光増強を確認し、その励起波長、金属基板とのスペーサー依存性を明らかにできた。
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