本研究の近赤外分光実験には、市販されているトリチウム水よりも高い濃度のものが必要であるため、合成する必要がある。昨年度の軽水素による水の合成のコールドランにより決定された条件を用いて、トリチウムの漏れのないようにしたセル内で、実際に高濃度のトリチウム水の合成を行った。トリチウムは全体で約2キュリー使用した。 合成したトリチウム水を光路長1mのステンレスセルに約2-4Torr入れて、近赤外周波数変調分光法を用いて7300cm-1付近の周波数帯で観測したところ、吸収線が26本観測された。バックグラウンドではこのような吸収線は見られないこと、線幅が大気中の分子の場合より細くなっているので、セル内の合成された分子による吸収線と判断した。さらに吸収線の周波数を大気科学の分野でよく知られる分子の吸収線のデータベースであるHITRANデータベースに収録された周波数と比較すると、混入の可能性のあるH_2OおよびHDOのとは一致しない吸収線が確認されており、これらの吸収線はトリチウム水による可能性が非常に高い。同様にメタンや二酸化炭素のスペクトルとも一致していない。本来この領域は群HTOが強く表れると予想される領域であるが、合成条件からはT_2Oの分量がずっと多いことも考えられ、HTOかT_2Oということを含めた最終的な確認にはより広帯域のスペクトルの測定とその解析を行い、分子定数の妥当性の検証をすることが必要である。
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