細胞界面ダイナミクスや力学特性には、時空間不均一性や細胞の個性が存在するが、そのような細胞状態を制御した計測はこれまでなされていない。例えば、細胞周期により細胞はその状態を大きく変化させていると考えられるが、細胞周期に対する細胞界面ナノ物性は不明である。そこで、本研究では、AFMを用いて、細胞周期を同調させた細胞を作成し、細胞周期と細胞界面ダイナミクスを調べた。細胞周期を同調させるために、血清飢餓法を用いた。本手法は、低侵襲で細胞をG1期に同調させることができる。AFMとマイクロアレイ技術を用いて、細胞界面ダイナミクス(複素弾性率)を測定した。その結果、細胞周期を同調した細胞の複素弾性率の細胞数分布は、非同調細胞と同様に対数分布を有することが分かった。また、複素弾性率の周波数依存性は、べき関数応答を示すことが分かった。そこで、細胞の複素弾性率を表現するモデルとして、構造ダンピングモデルを用いて、細胞周期同調細胞および非同調細胞とのべき指数および粘性応答を解析した。その結果、両者のべき指数の平均値と分散は等しく細胞骨格構造の力学特性は細胞周期に強く依存しないことが分かった。一方で、細胞粘性応答は、両者で大きく異なることが分かった。このことは、細胞周期を同調させる過程において、細胞内タンパク質状態が変化したことを示唆した。また、細胞膜脂質分子の細胞界面ダイナミクス測定を行った。その結果、細胞膜脂質分子の細胞内取り込み量は、M期に比べてG1/S期で増大し、その取り込み量が、細胞膜のコレステロールと強く関係していることが分かった。
|