研究概要 |
水分子と物質のあいだに働く親水性・疎水性相互作用は周りの水分子のスタティックな構造とダイナミクスに影響を与え、分子の反応性や機能性の発現機構を支配している。疎水性相互作用を研究するモデルとして、溶液化学の分野ではテトラアルキルアンモニウムイオン(R_4N^+)の水和構造が調べられている。水分子はアルキル基との反発を避けるために水分子同士で水素結合を作り、疎水性水和と呼ばれる水和殻を形成する。電気化学の分野において、R_4N^+は電解質として良く用いられるが、その水和構造と電極表面での構造変化について調べられた例はない,そこで、本研究では、電極界面におけるR_4N^+の水和構造とその構造変化を赤外分光法を用いて調べた。 テトラエチル、プロピル、ブチルアンモニウムイオン(Et_4N^+, Pr_4N^+, Bu_4N^+)を含む電解液の中で、COが吸着したPt電極を負に掃印すると、これらのイオンの界面濃度が増加し、アルキル基のバンド強度が増加し、同時に3200〜3500cm^<-1>に疎水性水和殻に帰属される強く水素結合したバンドが増加した。さらに電位を負に掃印すると、COの上にある水のバンド(3650cm^<-1>)が減少し、Pr_4N^+とBu_4N^+の場合、アルキル基のバンドは増加するにもかかわらず、水素結合のバンドは減少した。これは、電場強度が強くなることによって、イオンが表面に押しつけられて、水和殻が破壊されることを示している。水和殻が破壊されると、吸着COのスペクトル形の非対称性がおおきくなった。これは、水和殻が破壊されることでイオンとCOが直接相互作用するようになり、COの不均一性が増したためであると理解できる。一方、イオン半径が小さいEt_4N^+の場合には、水和殻は安定であり、測定した電位領域で水和殻は破壊されなかった。
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