研究概要 |
水分子と物質のあいだに働く親水性・疎水性相互作用は周りの水分子の構造とダイナミクスに影響を与え、分子の反応性や機能性を支配している。昨年度、我々は疎水性のテトラアルキルアンモニウムイオン(R_4N^+)に電場をかけて疎水分子で修飾した電極表面に押しつけると、イオンの疎水性水和殻が破壊され、同時に界面の水分子が追い出される現象をはじめて観測した。本年度は、親水性イオンを用いて親水性-疎水性、疎水性-疎水性物質が接近するとき、間にある水分子の特異的な挙動について調べた。 COが吸着したPt電極表面の水分子は、3670cm^<-1>に疎水界面に特有なFree OHに帰属されるバンドを与える。この表面に親水性イオン(Na^+,Mg^<2+>,Zn^<2+>,Me_4N^+)が近づくと、このFree OHが容易に追い出され、代わりにカチオンに配位した水が3600cm^<-1>に新しいバンドを与えることを観測した。一方、Pr_4N^+などの疎水性イオンが接近した場合、疎水性水和殻に帰属される強く水素結合したバンドが3500~3000cm^<-1>に現れた。このとき、Free OHはある閾値の電位より低い領域ではほとんど減少しないことから、疎水性イオンが疎水表面の水を押しのける過程にはエネルギー障壁があることが分かった。これらの違いは、イオンの水和構造の違いにある。親水性イオンの場合、第一水和圏の水分子はOHを外側に向け、第二、三水和圏へと水素結合が発展するのに対して、疎水性イオンの場合、水素結合は第一水和殻内の水分子同士を結合させる方向に向いているため、第二水和圏との相互作用は小さい。これらの水素結合の方向の違いが、表面に接近した際に表面の水分子の構造に異なる影響を与えると考えられる。また、固体表面へのイオンの接近はイオンそのものの水和殻を破壊することを観測した。
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