カリウムイオンチャネルの動的構造変化の全体像を解明するため、X線1分子計測法を改良して発展させること、蛍光によるカリウムチャネルの構造変化観測系を確立すること、およびX線1分子計測法で得られた画像データの解析プログラムの作製に取り組んだ。 X線1分子計測法では従来1秒間に30枚の画像を取得していた(30フレーム/秒)。しかしこの速度はイオンチャネルの構造変化の全体像を明らかにするには遅すぎることが観測データから示唆された。本年度は、観測システムを刷新し、微弱な信号を高速で観測できる観測システムの構築に成功した。観測速度は1秒間に5000枚の画像を取得できる速さである(5000フレーム/秒)。この観測速度はイオンチャネルの1分子電流計測のデータ取得速度と同等であり、動態と機能の関連を調べる点において大変有意義である。また、蛍光による構造変化観測については、蛍光プローブのチャネルへの導入位置と蛍光プローブの組み合わせを検討することにより、開閉構造変化を蛍光エネルギー移動(FRET)を用いて検出できる観測系を構築することに成功した。画像解析プログラムについては、従来法である30フレーム/秒の観測速度で得られた画像データを用いて、信号(回折スポット)とバックグラウンドノイズを区別できるアルゴリズムの開発に成功した。しかし、30フレーム/秒の観測速度ではスポットの形状や輝度が画像ごとに大きく変動するため、画像間での回折スポットの追跡は非常に困難であった。現在は5000フレーム/秒の高い時間分解能の画像を用いて追跡アルゴリズムを開発中である。
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