研究概要 |
「かご状有機金属錯体」は、自己組織化により特異なナノメートルサイズの疎水的空間を内部に形成し、様々な化学反応の場を提供する「分子フラスコ」としてはたらく。これまでにアダマンタン内包かご状錯体において、光誘起電子移動が生じることが明らかにされている。また、室温で氷と同じ水素結合構造を形成した水クラスターも報告されている。本研究では、この特異なナノ空間中における水クラスターおよびアダマンタンの光化学反応メカニズムを赤外および可視分光法で比較解析し、ナノ空間に束縛された水クラスターの水素結合ダイナミクスを明らかにすることを最終的な目的としている。 本年度の研究実績として主に以下のものが挙げられる。1, アダマンタン内包かご状錯体の光誘起電子移動反応の赤外分光解析かご状錯体を形成する4個の2, 4, 6-トリス(4-ピリジル)-1, 3, 5-トリアジンの1つが、1電子を受容して、赤外吸収変化をもたらしているものと結論づけた(Y. Furutani, et al., J. Am. Chem. Soc. 2009)。2, 水クラスター内包かご状錯体の赤外分光解析これまで水和フィルム試料において、低温で紫外線照射することにより、水のOH伸縮振動が変化することを確認している。この変化がアダマンタン同様に光誘起電子移動によるものかを確認するために、試料の温度をヒーターで上げ、温度上昇に由来する赤外差スペクトルと比較した。両者のスペクトルはよく一致したため、水のOH伸縮振動の変化は熱に由来することが分かった。今後は、時間分解計測を行うことで、ケージが吸収した光エネルギーがどのようにして水クラスターに伝達されているのかを明らかにする予定である。
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