研究概要 |
生きた細胞における蛋白質分子の物性や動態を調べるために, 原核生物(バクテリア)を試料としたin-cell NMR法を用いる, 新しい解析手法の開発と応用に関する研究を行うことを目的とする. In-cell NMRには, 生細胞内の生体高分子の高次構造や, 比較的遅いタイムスケールの分子動態をアミノ酸〜原子分解能で解析できるほぼ唯一の手法としての潜在的な有用性がある. 一方で様々な生体高分子に普遍的に使用できるツールとなるためには手法として未成熟な点が多く, 方法論的研究が希求されている. H20年度は, in-cell NMRを用いて, 生きた大腸菌の中の蛋白質の立体構造を決定する手法の開発を行った.具体的には, 試料の分子量や細胞内の発現量などの個々の条件に併せて, 安定同位体標識法,NMR測定法, 高次構造解析法などの様々な視点か照, 開発研究および最適化を行った. また, in-cell NMRを用いて, 蛋白質主鎖15N核の緩和時間の測定を行い, 細胞内蛋白質のダイナミクスの解析を行った. 蛋白質中の15N核等の緩和解析には, 長時間の測定と高感度が要求されるが, この2つのポイントはin-cell NMRのまさに「弱点」であるため, 方法論的な開発も行う. 解析の結果, 細胞内の粘度に対応する回転相関時間の増大に加えて, 何らかの原因による^<15>N核のT^2緩和時間の著しい短縮が観測された. この知見は, 細胞内環境における蛋白質の安定性と関係している可能性があり非常に興味深いが, 今後さ照に詳細な解析を行っていく必要がある.
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