研究概要 |
これまで我々は、より現実系に近い理論計算を実現するために、温度効果だけでなく水素原子核の量子揺らぎを考慮した多成分系分子理論を開発し、常温においても核の量子効果が重要であることを見出してきた。本課題においては、我々が展開してきた手法を駆使することにより、量子ゆらぎと熱ゆらぎを考慮した高次系生体分子水和クラスターを微視的に解明することを目的とする。 平成21年度は、経路積分分子動力学(PIMD)法を用いて、ab initio経路積分法を用いた低障壁水素結合クラスター(N_2H_7^+, H_3O_2^-)の計算、およびsemi-empirical経路積分法(半経験的分子軌道法による経路積分法)を用いたグリシン水クラスター(Gly・(H_2O)_n(n=2-7))の計算を実現した。いずれも水素原子核の量子効果が顕著に効き、大きなH/D同位体効果が生じることを見出した。 グリシン分子は水溶液中では双生イオン構造が安定であることが知られているが、気相中では中性構造が安定である。グリシン分子の水和過程におけるプロトン移動機構の解明を目指し、経路積分法を用いてグリシン水クラスターGly・(H_2O)_nを解析した。カルボキシル基と二つの水分子からなる環状の水素結合ネットワークが構成され、水素原子が大きく揺らいでいる様子が解った。また水分子が増えると、n=4-6で多段階でのプロトン交換が、n=7で双生イオン構造を示す分布が得られた。
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