1. 交差ジェットにより非弾性散乱されたピロール3、4量体のNH伸縮振動をキャビティリングダウン分光により観測した。クラスター生成ノズルの先端から60mmの距離に、ジェット流と垂直になるようにキャビティ軸を形成する。衝突用Heノズルを、二つのジェット流が90°で交差するように設置する。交差点から各ノズル先端までの距離は30mmである。Heジェット流をキャビティ軸と平行にすることにより、二つのジェット流が作る面内に散乱されたクラスターの赤外スペクトルを測定した。まず散乱前において、3392、3382cm^<-1>に3、4量体のシャープなNH伸縮振動(幅~1Gm^<-1>)を観測した。一方、散乱後には、3394cm^<-1>に幅~5cm^<-1>のブロードなバンドのみを観測した。この衝突誘起バンドの吸収強度は、3、4量体のシャープなバンドとの強い相関が認められた。従って、3394cm^<-1>のバンドを、非弾性散乱により分子間振動が励起された3或いは4量体のNH伸縮振動と帰属した。構造揺らぎの誘起により、クラスターを形成しているNH-π水素結合が弱められ、その結果NH伸縮振動が高波数シフトしたものと考えている。 2. 赤外キャビティリングダウン分光法と密度汎関数計算により巨大アンモニアクラスターの水素結合構造の解明を行った。クラスターサイズをn=100→700と増加させた時、モード3のバンド幅の狭まり(38→17cm^<-1>)が観測された。結晶モデルクラスターの振動計算を行った結果、クラスターの表面、及び内部にあるアンモニアのモード3は、各々サイズ増加に伴い低波数、高波数シフトを示し、双方が凝集系結晶の振動数に収斂した。従って、赤外スペクトルに観測されたモード3の狭帯化は、結晶類似の水素結合により形成されたクラスターのサイズ増加に由来するものと結論した。
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