これまで使用していたブタミトコンドリア標品には、心筋由来のミオグロビンが夾雑していることが判明したので、ミトコンドリアの単離法の改良を行った。すなわち、150mMKC1を含む10mMリン酸ナトリウム、pH7.4緩衝液でミトコンドリアを洗う操作を加えるなどしたところ、吸収スペクトルおよび共鳴ラマンスペクトルから判断して、ミオグロビンをほとんど含まない標品が得られた。酸素電極法によって測定した呼吸調節率は3であり、本研究の目的に使用可能であった。次に「ミトコンドリア用酵素反応追跡用人工心肺装置」に更に改良を加えた。すなわち、粘性の高いミトコンドリア懸濁液がより滑らかに流路を流れるように、接続箇所を減らした。また、ラマンスペクトル測定用フローセルの直後にサーミスタ温度センサーを取り付け、測定点における試料温度を常時測定できるようにした。以上により、ミトコンドリア中のチトクロムc酸化酵素(CcO)の反応を時間分解共鳴ラマン分光法で追跡する準備が整った。 単離した可溶化CcOをリン脂質二重膜小胞に再構成したCOVは膜電位存在下のCcOの反応と構造を調べることができ、その意味でミトコンドリアのモデルになる。これまでの調製法で得たCOVにおけるCcOの濃度は、0.1μM程度であり、共鳴ラマンスペクトルの測定には低すぎた。しかし、単に濃縮すると呼吸調節率が下がってしまうことが問題であった。本研究では、調製法を改良し、呼吸調節率が10以上、且つ、CcO濃度が2μM程度の標品を得た。しかし、更に再現性を高める必要がある。 以上のほか、トリプトファンピロラーゼと西洋ワサビペルオキシダーゼを共鳴ラマン分光法により調べ、新しい知見を得た。
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