研究概要 |
これまでに我々はビーズに固定化した膜蛋白質を脂質二重膜中に再構成するBPL法を開発し、相互作用残基を同定する転移交差飽和法(TCS法)を開発してきた。TCS法は、交差飽和を受け取るアクセプター分子上の結合界面を明らかとすることが可能であるが、ドナーであるBPL上のアクセプター結合部位に関する情報は得られない。そこで、ドナーに対して特定のアミノ酸以外を2Hとする、アミノ酸選択的1Hラベルを行い、交差飽和源を1種類のアミノ酸に限定する、アミノ酸選択的交差飽和(ASCS)法1を開発した。本手法により、ドナー上においてアクセプターへ近接するアミノ酸残基に関する情報が得られ、近接残基対の同定が可能となる。 本手法を、yeast ubiquitin (Ub)と、その加水分解酵素であるyeast ubiquitin hydrolase C90S変異体(YUH1)に対して、Ubをアクセプターに、YUH1をドナーとして適用した。 まず、アミノ酸選択標識を行う大腸菌を用いた蛋白質発現系において、標識の選択性およびその効率を定量的に明らかにした。その結果、Ala, Arg, Cys, Gly, His, Ile, Leu, Lys, Met, Phe, Pro, TrpおよびTyrが選択標識可能である一方、Asp, Gln, Serは他のアミノ酸へと代謝されるため、選択標識には不適切であることがわかった。 Ala, Leu, ProおよびTyr選択的CS実験の結果、1Hラベルを行ったYUH1のアミノ酸から5A以内に存在するUbの残基に大きな交差飽和が観測され、5A以上離れている残基には交差飽和が観測されなかった。このことは、近接アミノ酸からの交差飽和を観測する、ASCS法が確立したことを示している。
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