研究概要 |
これまでに我々はビーズに固定化した膜蛋白質を脂質二重膜中に再構成するBPL法を開発し、相互作用残基を同定する転移交差飽和法(TCS法)を開発してきた。TCS法は、交差飽和を受け取るアクセプター分子上の結合界面を明らかとすることが可能であるが、ドナーであるBPL上のアクセプター結合部位に関する情報は得られない。そこで、ドナーに対して特定のアミノ酸以外を^2Hとする、アミノ酸選択的^1Hラベルを行い、交差飽和源を1種類のアミノ酸に限定する、アミノ酸選択的交差飽和(ASCS)法を開発した。本手法を、yeast ubiquitin (Ub)と、その加水分解酵素であるUb hydrolase 1(C90S変異体,以下YUH1)に対して、Ubをアクセプターに、YUH1をドナーとして適用したところ、結晶構造に一致するYUH1上の結合部位の同定に成功したものの、同一結合部位の中での複数の異なる組み合わせがASCS実験結果を満たすことが判明した。そこで、ASCS法のみでは近接残基対の同定および複合体モデルの構築が困難な巨大タンパク質複合体の構造解析を目指し、特定の一残基を^1H、他を^2H標識して交差飽和源を一残基のみに限定する「残基選択的TCS法(RSTCS法)」を開発した。Leu165選択[^1H,^<13>C]標識YUHをCSドナー、均一[^2H,^<15>N]標識UbをCSアクセプターとしたRSTCS実験の結果、UbのR74およびG75において、L165からの交差飽和によるNMRシグナル強度減少が観測された。YUH上のL165とUb上のR74は、結晶構造において近接する残基対である。したがって、RSTCS法を用いることにUb-YUH複合体の正確な近接残基対を同定できたと結論した。
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