細菌べん毛モーターの回転力は、膜タンパク質であるMotA/MotB固定子複合体の中をイオンが流れる際に発生する。MotA/B複合体はMotBのペプチドグリカン結合モチーフにより、モーター内の適切な場所に固定されると考えられてきた。複合体の固定のメカニズムを構造から解明するために、このモチーフを含む可溶性のMotB断片を作成し結晶化を試みた。いくつかのコンストラクトで結晶化および構造解析に成功し、その中で99番目から276番目までの残基を含むMotB_<C2>において、高い分解能(1.75A)で最も多くの残基を含むモデルを組むことが出来た。MotB_<C2>は1つのドメインで構成され、二量体を形成していた。PGBドメインを含むコア部分は、これまでに報告されたPal、RmpM、MotYといったPG結合蛋白質の構造と非常に良く似ていた。コア部分のN末端側にはβシートに続いてPGBドメインから長く突き出るようなαヘリックスが存在し、その先がMotBのN末膜貫通部位へとつながって行くと考えられる。構造情報をもとに、二量体を形成する境界面に変異を導入しダイマー形成を阻害したところ、MotBの膜貫通部位の配置が変化し、菌の運動能が低下していた。従ってPGBドメインでの二量体形成が、固定子のチャネル部分を形成する膜貫通ヘリックスの適切な配置に重要であると考えられる。MotB_Cが予想以上にコンパクトな構造であるため、ペプチドグリカン層に作用し固定するためには、MotB_Cにおいて大きな構造変化が起こらなければならない。PGBドメインはよく保存された構造であること、上述のN末端ヘリックス上のL119残基の変異で菌の生育が阻害されたことを考慮すると、MotB_CのN末部分がこの構造変化に関与すると考えられる。
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