本研究では、マウス嗅覚システムを構築するために必要な遺伝情報デコードに重きを置き、1) 嗅神経細胞が千種類以上存在する嗅覚受容体(odorant receptor : OR)遺伝子から一つのみを選択的に発現する機構と、2) 嗅神経細胞が軸索を嗅球上のどこに投射すれば良いかを規定する様々な遺伝子の発現を、発現するORを介したシグナルが制御する機構、の二点を明らかにすることを目指す。今年度は、1) を中心に研究を進めた。 a) マウスH領域内シスエレメントに結合する転写因子の単離 酵母one hybrid法を用いて、嗅上皮由来のcDNAライブラリーをスクリーニングした結果、ホメオドメイン転写因子であるLhx2、Barxl、Dlx3、Dlx5、Emx2が単離された。これらの因子は、異なった結合強度で、コアH配列内に存在する2箇所のホメオドメイン結合配列に会合する事が、コアH配列への変異導入実験から明らかとなった。 b) OR遺伝子の負の発現制御の実体解明 一旦機能的なORタンパク質が発現すると、負のフィードバックシグナルにより、他のOR遺伝子の発現が抑えられる機構が存在すると考えられている。負のフィードバックシグナルがβ-Arrestinを介したものと想定し、β-Arrestinシグナルを抑えた場合に、OR遺伝子の発現に与える影響を解析した。OR遺伝子のプロモーターの制御下で、野生型β2AR、あるいはβ-Arrestinシグナルのみ抑制される変異型β2ARを発現するトランスジェニックマウスを作製した。その結果、野生型β2ARを発現させた場合には、OR分子と同様に振る舞い、内在性のOR遺伝子は全く共発現していない。一方、変異型β2ARを発現させた場合には、様々な内在性のOR遺伝子が共発現し、嗅細胞の軸索投射も乱れていた。今後β-Arrestinのknockoutマウスを作成し、この分子の関与を検証していく。
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