小胞体ストレス応答は小胞体の恒常性を維持する生体防御機構であり、細胞生物学の根幹に関わる基本的命題であるとともに、神経変性疾患や糖尿病など様々な疾患の病態と深く関連する研究領域である。転写因子XBP1はヒトの小胞体ストレス応答を制御する主要な転写因子であり、その発現はセンサー型RNaseであるIRE1による細胞質スプライシングと、プロテアソームによる分解によって制御されている。前年度までの研究によって、XBP1に結合する因子UBC9を単離し、小胞体ストレス応答の正の制御因子であることを明らかにした。本年度の研究によって、UBC9はプロテアソームによるXBP1の分解を抑止し、XBP1を安定化することによって小胞体ストレス応答を正に制御していることを明らかにした。またXBP1に結合するもう一つの因子RHAについて解析したところ、RHAは小胞体ストレス応答を負に制御することを見いだした。RHAはクロマチンリモデリングに関与すること、またRHAはUBC9と結合することが知られていることから、XBP1とUBC9、RHAは小胞体ストレス応答の標的遺伝子のクロマチン構造を制御することによって転写を制御している可能性が示唆された。今後は、XBP1の細胞質スプライシングを制御する因子を検索するとともに、XBP1-UBC9-RHAによる転写制御機構の詳細について解析し、小胞体ストレス応答の分子機構の全貌を明らかにする計画である。
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