本年度は、以下のような項目について解析を行った。(1) 転写因子のターゲットの網羅的予測 : 酵母ゲノムについて、これまでに開発してきた、蛋白質とDNAの相互作用データ、複合体の構造データや計算機シミュレーションなどに基づく予測方法を組み合わせ網羅的な予測を行った。(2) 転写因子情報のデータベース化とコンテクスト・協同性の解析 : 予測された結合部位やターゲット遺伝子などの情報を酵母の転写制御情報の統合データベースに統合し、プロモーター上での転写因子の結合サイトのコンテクストの解析を行った。このためにまず、特定の転写因子について、実験的に知られているターゲット遺伝子の制御領域でのその転写因子と他の転写因子のコンテクストを結合する転写因子の組成、結合部位の距離、順序などによりクラスター化を行い、コントロール遺伝子の制御領域に対する結果と比較した。また、転写因子のコンテクストの解析をもとに、遺伝子機能などのアノテーションとの相関を調べた。これまでの特定の転写因子に対する試験的な解析では明確な結論は得られていないが、多くの転写因子を網羅的に調べることにより何らかの相関が見られると期待している。(3) 転写制御ネットワークの協同性の解析 : 転写因子とターゲット遺伝子の産物からなるネットワークを可視化するインターフェイスを作成した。これを使って、転写制御ネットワークの階層性やモジュール構造などをゲノムスケールで解析している。(4) 転写因子構造ネットワークの解析 : 転写因子とDNAの複合体の構造情報を解析することにより、分子間の相互作用ネットワークを解析するツール、PDBnet、を開発してきた。これを用いて、いくつかの例について転写制御ネットワークの協同性を構造レベルで解析した。これまでの解析から、転写制御の協同性が構造レベルで重要な役割を果たしていることが明らかになった。
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