ステロイドなどをリガンドとする核内受容体は転写因子として機能し、組織特異的な生理作用や各種病態において重要な役割を有する。本研究は核内受容体の相互作用による遺伝子発現制御とその標的遺伝子を明らかにし、核内受容体の遺伝情報制御を統合的に解明することを目的として行った。本年度の研究では、NMDA受容体サブユニットの1つであるNR2Dがマウスの視床下部においてエストロゲン応答遺伝子であることをERαノックアウトマウスを用いて明らかにした。また、NR2Dノックアウトマウスの解析から、NR2Dはメスの性行動であるロードシス反射を媒介することを解明した。また、骨芽細胞におけるグルココルチコイド応答遺伝子を網羅的に探索し、EPAS1を同定した。EPAS1を間葉系細胞に過剰発現すると骨芽細胞分化が抑制されることが明らかになった。EPAS1は低酸素応答に関与する転写因子として機能するほか、脂肪細胞分化を促進する作用も有することが報告されており、グルココルチコイドシグナルとの相互作用の存在が示された。さらに、前立腺がん臨床サンプルにおけるERRの発現解析から、ERRγが低発現でERRαが高発現のものはがん特異的生存率が低いことが明らかになり、2つの核内受容体ERRγとERRαは予後予測に関するバイオマーカーであることが判明した。前年度までの研究により、ERRαとERRγは脂肪細胞分化に対して促進的役割を担っていることを解明しており、ERRの組織特異的作用が解明された。また、我々は先にERαとERRαによって転写制御される因子が、エネルギー代謝に関与することを明らかにしており、ノックアウトマウスによる生体レベルでの機能解析系を構築した。このような核内受容体の相互作用による遺伝情報DECODEシステムの解明は、エネルギー代謝やがんにおける新たな治療標的分子としての可能性が期待された。
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