これまで我々はATF-2遺伝子ファミリーメンバーのノックアウトマウスを作製して生理学的な機能をマウス個体を用いて解析してきた。ATF-7遺伝子欠損マウスは音響驚愕実験とPPI及びビー玉隠し実験で異常を示し、セロトニンに関係する行動異常が見られた。DNAマイクロアレーを用いた解析で、この時HTR5Bの発現が中脳の背側縫線核で大幅に亢進していることが明らかに成った。この事から、ATF-7は他のファミリーメンバーのATF-2やCRE-BPaとは異なり、本来転写を負に制御している可能性が浮かび上がって来た。 今回、HeLa細胞を用いてFLAG-HAタグの付いたATF-7を発現する細胞株を作製し、大量培養後、核抽出液から抗FLAGと抗HA抗体を用いて、複合体を精製した。構成因子を質量分析によって同定した結果、DNA-PKを含むヘテロクロマチンを構成する因子やヒストンシャペロン等、これまでATF-2遺伝子ファミリーメンバーとの関与が全く知られていない多くの因子が同定された。 次に、ラット中脳の縫線核由来の神経細胞RN46Aの細胞抽出液をATF-7特異抗体で免疫沈降すると、ヒストンH3K9のトリメチル化酵素であるESETが供沈されてくる事が明らかに成った。また、ATF-7遺伝子欠損マウスではHTR5B転写調節領域のヒストンH3K9のトリメチル化が野生型と比較して有意に低下していた。 以上の結果から、ATF-7は核内で仲介因子mAMを介してH3K9のトリメチル化酵素であるESETをリクルートしてくる事によって、HTR5Bの遺伝子発現を抑制していると考えられる。今回、新たに見つけたヘテロクロマチンの維持・形成に関与する因子はヒストンのメチル化に関与して、ATF-7の標的遺伝子の転写抑制に関与していると推定している。また、ストレス刺激によってATF-7複合体が一旦解離する事も見出した。
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