研究概要 |
直径2nm、全長2mにも及ぶヒトゲノムDNAは、まず、塩基性蛋白質ヒストンに巻かれ、ヌクレオソームになり、さらに折り畳まれて直径約30nmのクロマチン線維を形成するとされている。しかしながら、このクロマチン線維がどのようにして、最終的に直径約0.7μmの分裂期染色体や、直径10μmの細胞核の中に折り畳まれているのか?については全くの謎であり、長年に渡って生物学者たちの興味を集めてきた。古くから提唱されているモデルでは、「30nmのクロマチン線維が、100nm、200nmと、らせん状の階層構造を形成している」と予想されている。間期の核内の太いファイバーはクロモネマファイバーと呼ばれている。 私たちは、「生きた状態」に近い細胞観察ができるクライオ電子顕微鏡や、溶液中の非結晶物体の構造解析が可能なX線散乱解析などの物理化学的測定をおこなってきた(Maeshima et al.,Current Opinion in Cell Biology, in press)。現在までの知見ではヌクレオソームに相当する11nm散乱のピーク以上の大きな構造は検出されていない。つまり、ヌクレオソーム線維の不規則な折り畳みによって成り立っていると考えている。このことは、古くから提唱されているモデルが必ずしも正しくない可能性を示唆している。 次に、生きた細胞の核内部の環境を蛍光相関分光法(FCS)を利用して調べた。FCSは細胞内の微小な観察領域(confocal volume)の蛍光分子の動きを、蛍光強度のゆらぎによって検出する方法である。これにより、細胞核内部の蛍光分子の拡散定数を測定し、内部環境を間接的に知ることが可能である。現在得られている拡散係数は約20um^2/sであった。驚いたことに、この値は細胞質、分裂期染色体とあまり変わらなかった。これらの結果から、私たちは、核や染色体内部は、ヌクレオソーム線維が不規則に折り畳まれている動的な環境ではないかと、考えている。
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