植物の養分吸収変異体の獲得のためにTCP-MSを利用したイオノーム手法を導入した。従来の変異体のスクリーニングでは多くの場合生育遅延、葉色変化などの表現系を対象としていたため、生育などに明瞭な変化が認められないような変異体の獲得は困難であった。そこで体内に吸収される15種類の元素(カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、モリブデン、マンガン、ホウ素といった必須元素の他に生育に障害が出ないレベルの有害元素であるニッケル、ヒ素、鉛、ストロンチウム、セシウム、ナトリウム、カドミウム)を同時分析するためにまず200個体を同じ条件で栽培可能な方法を決定した。続いて、EMSによる変位剤処理を施し、変位を起こした株をハイスループットにICP-MSを活用して解析する手法を確立した。その結果、約3週間で200個体x15元素のスクリーニングが可能となった。また、測定は地上部のみを対象とすることにより、培養液に残した根部(十茎下部)から植物体を再生させることに成功し、これによって特徴的な変異株候補の種子を得ることが可能となった。対象とした植物はマメ科のモデル植物であるミヤコクザであり、本手法によってモリブデンの吸収変異体、マグネシウムの吸収変異体といった新たな変異体が実際に獲得されるにいたった。また野生系統の養分吸収特性の比較を行ったところ、これまで酵母において知られていたマグネシウム、リン、ニッケル、モリブデンの化学的性質の異なる4つの元素間にイオンホメオスタシスが存在する可能性が見出された。
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