研究概要 |
根の銅ホメオスタシスの分子生理学的な理解を深めるとともに品種改良に直結する、銅ホメオスタシス構成分子の多型と銅耐性品種間差の関係を、シロイヌナズナのナチュラルバリエーション研究により解明することを目的として以下の2点を明らかにした。1)QTL解析で用いたLer/Cvi RILsの親系統であるLer-2とCvi-1のAtHMA5アミノ酸多型解析を行った結果, 感受性アクセッションであるCvi-1に2つのアミノ酸置換(S178L, N923T)が認められた. 酵母を用いた相補性試験により, 銅輸送機能を欠損するアミノ酸残基の置換(N923T)がわかった. また, 耐性および感受性を含む40のアクセッション間には7か所にアミノ酸の多型が存在し, その配列から7つのハプロタイプに分類された. 植物を用いた相補性試験により, 銅感受性アクセッション, Chi-2の感受性は, AtHMA5のアミノ酸残基の置換(P262L)に起因していることがわかった. Cvi-1およびChi-2の置換部位は, 植物種だけでなく原核生物から真核生物に至るまで広く保存されるP-type ATPaseのモチーフ[CPC(x)6P, N(x)6YN(x)4P]内に存在しており, AtHMA5の機能低下を引き起こしている. シロイヌナズナに存在する銅耐性ナチュラルバリエーションの一因として, AtHMA5が関与していることが明らかとなった. 2)AtHMA5の発現は根部に特異的であり, その発現は銅ストレス条件下(1.3μM CuSO4)で誘導された. また, GUSレポーター遺伝子を用いた発現解析により, 根の基部における恒常的な発現が認められた. 銅ストレス条件下では, その発現が基部においてより中心柱付近に偏る傾向がみられ, 根端における発現誘導が起こった. この発現誘導は, 銅イオン特異的に速やかに行われた. これらのことから、AtHMA5は、通常、根部から地上部への銅の移行を担っており、銅ストレス条件下では、発現部位の調節によって根部に蓄積する銅の無毒化に貢献していることが明らかとなった.
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