本研究では、農耕地への蓄積が懸念されている、銅の過剰害に対する耐性機構を調べるために、シロイヌナズナの品種間遺伝解析を行った。銅は、動物性堆肥(主に豚の排泄物から作られる堆肥)や古典的な殺菌剤であるボルドー溶液(硫酸銅と石灰の混合物)に含まれるため、循環型農業での蓄積が懸念されている。ところで、平成20年度に明らかにしたように、銅輸送に関わる重要分子(例えば転流に関係するHMA5銅輸送ATP加水分解酵素)の能力は、銅耐性を決定する重要因子である。しかし、この機構で説明できる系統の数は限られており、耐性差をもたらしている他の機構が存在すると考えられた。そこで、平成21年度は平成20年度に引き続いて、アソシエーション解析を実施して、銅耐性が過酸化水素耐性やカドミウム耐性と似た遺伝構造を持つことを突き止めた。この解析は、ごく最近報告されたゲノムワイドな遺伝子多型をもとに統計的に推定する方法で、アソシエーション解析の例としては極めて早い報告となった。この解析に加えて、3組のRIラインを用いたQTL(量的遺伝形質)解析から、同モデル(過酸化水素耐性と共通すること)がシロイヌナズナの系統間差を説明できるものであることを裏付けた。このモデルは、予備的に調べたイネにおける実験から作物の品種間にも適合する可能性が高く、分子育種(マーカーアシスト選抜や、遺伝子組換え育種)により、作物の銅耐性を向上させる基礎的な知見を提供することができた。
|