陸上生態系の窒素の80〜90%は生物学的窒素固定に由来し、特にマメ科植物と根粒菌の窒素循環に対する貢献は大きい。共生系の確立には種特異的な相互認識が必要で、初期にはフラボノイドがシグナル分子として使われるなど、物質輸送が極めて重要な役割を果たしている。本研究では、マメ科のモデル植物ミヤコグサを用い、植物-微生物共生系確立に寄与する植物輸送体の解析を目的とする。特に、オートレギュレーションと呼ばれる地上部を介した長距離シグナルは、過剰に根粒が根に着生するのを防ぎ、大気から固定した窒素代謝物を得る代わりに炭素源である光合成産物を根粒菌に受け渡すCとNのパラレルな供給が、適度なバランスを持って行われている。 我々がミヤコグサのアレイ解析データから着目したATP結合カセット(ABC)トランスポータLjPDR1は根で特異的に発現する遺伝子で、根粒形成時ならびにオートレギュレーションをミミックするジャスモン酸にも鋭く応答し、これらで特異的に発現誘導される。LjPDR1の発現組織と細胞タイプ特異性を突き止め、遺伝子発現の改変株での根粒形成能を比較し、このABC蛋白質が根粒の数の制御にどのような機構で関与するかを解明することを目的とした。 H20年度はLjPDR1の発現組織特異性を厳密に明らかにするため、自らのプロモータでドライブしたGUSコンストラクトを用いて調べた所、本遺伝子は若い根の中心柱と根端で強く発現していること、また、生長中の根粒で発現が高いことが認められた。ペプチド抗体とショ糖密度勾配遠心法を用いてLjPDR1の局在膜を調べた所、細胞膜であることを明らかにした。次いでRNAiでLjPDR1の発現を低下させたミヤコグサを作成し、発現をノックダウンしたクローンを10ライン以上作成したが、20%程度の発現が残っており、根粒数に対する影響は認められなかった。
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