植物における硫黄同化・代謝の制御機構の解明は、作物の硫黄同化効率の上昇、有用含硫化合物の蓄積制御へ向けた重要課題である。環境中の硫黄欠乏(-S)に応答して硫黄代謝系を包括的に制御する転写因子SLIM1は、EIL転写因子の一種EIL3と同一である。シロイヌナズナには6種のEIL転写因子が存在し、これらのうち、EIN3、EIL1、EIL2はエチレン応答性の転写制御に関わることで知られる。また、エチレン、サイトカイニンの情報伝達系はその受容体ヒスチジンキナーゼ(HK)と末端の転写制御因子(ERF、CRF)が共通している。これらの情報伝達系と-S応答の情報伝達系との類似を示唆する知見がいくつか得られている。本研究では、SLIM1の研究から得られた知見を活用し、すでに多くの知見が得られているエチレン、サイトカイニンの情報伝達系との比較解析を行うことにより、-Sの認識、SLIM1の機能発現、硫黄同化系促進の各段階で働く因子を同定する。得られる知見は、硫黄同化系制御の分子基盤となり、-Sや硫黄過剰による農業上の問題や環境問題を解決するための一助となる。 平成20年度は、-Sの認識に働くHKを同定するためのHK遺伝子欠損変異株の取得、SLIM1抗体の作製、SLIM1依存的に-Sで発現の上昇するERF転写因子の探索およびこれらの機能解析のための遺伝子欠損変異株、過剰発現株の作製を行った。また、-Sで発現の上昇する硫酸イオントランスポーターSULTR1 ; 2の上流域に存在する硫黄栄養応答性シス因子の解析を行い、シス因子にWRKY転写因子の結合配列が存在する事を見出した。WRKY転写因子もまた、エチレン情報伝達系で働く事が知られている。SLIM1依存的に-Sで発現の上昇するWRKY転写因子の探索を行い、その機能解析のための遺伝子欠損変異株、過剰発現株の作製を行った。
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