ロドプシンが担う光情報変換機能の初期過程は、蛋白質内に含む発色団レチナールの11-cis型から全トランス型への光異性化反応である。バソ中間体において吸収した光エネルギーが活性部位レチナールに微小な歪みとして蓄えられ、ルミ中間体を経てメタ中間体で分子全体に広がる構造変化を惹起し、その結果、細胞質側表面に共役したG蛋白質に光情報が伝えられる。本研究課題では、バソ中間体およびその光異性体である9-シス型イソロドプシンの構造解析を行った。 イカロドプシン結晶に対し液体窒素温度下でさまざまな波長の光を照射すると、11-シス型基底状態、9-シス型イソロドプシン、全トランス型バソ中間体の3状態間で平衡状態を形成した。この平衡状態において、さまざまな光照射条件下での光異性体の形成率を見積もり、バソ中間体およびイソロドプシンの測定に最適な条件を見出した。さらに、3状態間遷移の速度定数を決定することができた。X線回折実験においては、ビームラインに設置されたオンライン顕微分光装置を用いて照射したX線量に依存する結晶の吸収変化を測定し、少量のX線量によって壊れていくタンパク質を定量的に解析し、X線照射下でのバソ中間体の残存率を正確に見積もった。これらの結果に基づき、バソ中間体とイソロドプシンのモデルを精度よく構築することができた。
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