翻訳の最終段階では、リボソームが終止コドンを認識し、ペプチジルtRNAを加水分解することにより新生ポリペプチドがリボソームから解離する。この翻訳終結反応の過程にはtRNA類似構造をとることにより終止コドンを認識するeRF1とeRF3の2種類の因子が関わる。eRF3は翻訳伸長因子であるeEFIAと相同性の高いG蛋白質であり、eRF1をリボソームAサイト上の終止コドンまで運搬する機能を担う。 G蛋白質eRF3は翻訳終結反応だけでなく、翻訳・mRNA分解制御においても重要な役割を果たすことを明らかにしてきた。mRNAは1回目の翻訳過程において、その蛋白質コード領域内に異常な終止コドンであるナンセンスコドンの存在がチェックされる。ナンセンスコドンが見出されると、ナンセンスコドン介在型mRNA分解(Nonsense-mediated mRNA decay ; NMD)が働き、そのmRNAは速やかに分解される。ナンセンスコドンは終止コドンに他ならず、翻訳終結反応がNMDにおいて必須である。本年度はこの分子機構の解析を行った。1)NMDにおける急速なmRNA分解は通常のmRNA分解とは対照的に、poly(A)鎖短縮化に依存せずデキャッピング依存的に引き起こされる。2)G蛋白質eRF3とデキャッピング酵素Dcp1が直接相互作用する。3)G蛋白質eRF3上におけるデキャッピング酵素Dcp1との相互作用領域を同定した。 G蛋白質eRF3には複数のホモログが存在しファミリーを形成する。またNMD以外にも異常なmRNAを速やかに分解する経路が存在する。終止コドンを失ったmRNAの速やかな分解(Non-stopdecay ; NSD)、翻訳伸長途中でリボソームが停止したときのmRNA分解(No-godecay ; NGD)である。G蛋白質eRF3ファミリーがNMD、NGD、NSDにおいてどのように使い分けられ機能しているかについての解析にも着手した。
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