脊椎動物で最も下等な無顎類(ヌタウナギやヤツメウナギ)の獲得免疫系では、leucine- rich repeat (LRR)から成るvariable lymphocyte receptor (VLR)が抗原受容体として機能している。VLRには2種類(VLR_AとVLR_B)があり、VLR_Aを発現している細胞は有顎類のT細胞に、VLR_Bを発現しているものはB細胞に対応するのではないかと考えられている。これら2種類のVLR遺伝子はどちらも複数のLRRを含み、それぞれの分子はLRRの数とその配列において極めて大きな多様性を示す。VLR遺伝子の多様性は、"copy choice"と呼ばれるDNA複製を介した遺伝子再編成機構により創出されていることを我々はすでに報告している。本研究課題では、VLR遺伝子再編成がどの様に制御されているのかについてヌタウナギ(Eptatretus burgeri)を用いて検討した。その結果、VLR_AとVLR_Bの遺伝子再編成は相互排他的に起こっていること、また、この系においても、イムノグロブリン型の抗原受容体遺伝子と同様、allelic exclusionが基本的に成立している事が明らかとなった。Allelic exclusionに関しては、リンパ細胞が一方のalleleで遺伝子再編成を行い機能的な抗原受容体タンパク質を作りだすと、もう一方のalleleでの遺伝子再編成が抑えられるという、フィードバック制御が働いている事が示唆された。この様に無顎類における抗原受容体遺伝子の再編成も、有顎類におけるV(D)J組み換えと同様に極めて巧妙に制御されている事が明らかとなった。
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