研究概要 |
グルタミン酸は、成体内の全ての細胞内に存在するアミノ酸であるが、哺乳類中枢神経系では、最も主要な神経伝達物質として働き、脳高次機能を支えている。ニューロンがグルタミン酸を細胞外に放出するためには、細胞質に存在するグルタミン酸を分泌顆粒であるシナプス小胞内へと輸送するタンパク質「小胞型グルタミン酸トランスポーター(VGLUT)」が必要不可欠である。哺乳類脳から精製したシナプス小胞画分を用いた生化学的測定法により、シナプス小胞のグルタミン酸取込活性には、小胞外の塩素イオンの濃度が大きな影響を及ぼすことが従来から知られていたが、塩素イオンが如何にしてVGLUTの活性を調節しているのかは長年の謎であった。本研究では、組換えVGLUTタンパク質を人工脂質膜に再構成し、以下の知見を得た。 (1) VGLUTがシナプス小胞の塩素イオン透過性を司っている。 (2) 小胞内に高い濃度(100mM)の塩素イオンが存在すると、VGLUTのグルタミン酸輸送活性が著しく亢進する。 (3) 小胞内の高濃度塩素イオンの存在により、VGLUTはプロトンポンプが形成する膜内外の膜電位勾配を利用してグルタミン酸を輸送する。 細胞外液には高い濃度の塩素イオン(〜140mM)が存在しており、シナプス小胞がエンドサイトーシスにより形質膜で作られる時に小胞内に流入する。したがって、今回の我々の研究結果から、小胞内のグルタミン酸量は、細胞外液中の塩素イオン濃度と強い相関を示すことが推察された(Schenck et al., Nature Neuroscience誌に報告)。
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