アスピリンを代表とする非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)は大変よく使われているが、その細胞膜輸送機構は理解されていない。またNSAIDsの主な副作用である胃潰瘍(NSAIDs潰瘍)、特にその感受性に関する個人差が臨床現場で大きな問題になっている。我々はNSAIDsの多彩な薬理作用(胃潰瘍副作用など)に与る分子機構の解明を精力的に行ってきた。この研究の一環として我々は、NSAIDsの細胞膜輸送に与るタンパク質としてTETRANを同定した。本特定領域研究において我々は、TETRANがNSAIDsを初め多くのアニオン性薬物の細胞内への取り込み、及び排出に関与していること、TETRANが膜の電気的ポテンシャルをエネルギー源として利用していること、TETRANが消化管だけでなく、腎臓、特に近位尿細管のアピカル側膜(brush border membrane)で強く発現していることなどを見出した。また近位尿細管のアピカル側膜に存在する薬物尿排泄トランスポートソームの構成タンパク質を同定するために、近位尿細管のアピカル側膜を調製し、MATE1やTETRANと結合しているタンパク質を免疫沈殿法を用いて単離・同定した。アミノ酸配列の解析から候補タンパク質を絞り込み、現在培養細胞を用いて、それらが薬物の尿中排泄に関与しているか(薬物尿排泄トランスポートソームの構成タンパク質であるか)を決定している。一方、TETRANのノックアウトマウスを作成し、NSAIDsを初め各種アニオン性薬物の体内動態、特に尿中排泄を野生型マウスと比較し、TETRANがアニオン性薬物の尿中排泄においてどのような役割を果たしているかを明らかにする研究も進行中である。
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