造血幹細胞は通常細胞周期のG_0期にあり休眠状態にあるが、周期的に細胞周期にはいり、自己複製するか分化するか等の運命の選択を行う。これまで造血幹細胞制御におけるニッチの機能について明確に示した研究はなかった。ニッチは複数の細胞や細胞外マトリックス等によって構成される。そのため発生工学的手法によってニッチ自体を欠損させてニッチ機能を解析することが困難であることが大きな原因のひとつである。そこで本研究では、「成体マウスの造血幹細胞には少なくともふたつの機能の異なるニッチが存在し、それぞれのニッチによって造血幹細胞の運命と挙動が支配されている」ことを想定し、ニッチ機能を明確にすることを目的とした。造血幹細胞は成体マウスでは骨髄と脾臓の両方に存在する。そこでそれぞれの造血幹細胞の能力をクローナルなレベルで比較した。その結果、両者の造血系再構築能と自己複製能には差がないことが明らかとなった。また、パラビオーシスモデルの実験から脾臓中の造血幹細胞は末梢血中の造血幹細胞と異なることが明らかとなった。BrdUを用いた細胞周期の解析を行ったところ、脾臓の造血幹細胞は骨髄の造血幹細胞と比較して約2倍の頻度で細胞周期に入ることが明らかとなった。次に、骨髄の造血幹細胞と脾臓の造血幹細胞の移植後のホーミングを比較した。その結果、骨髄造血幹細胞は骨髄と脾臓にホーミングするのに対して、脾臓造血幹細胞は骨髄にのみホーミングすることが判明した。本研究より造血幹細胞制御におけるニッチ機能として(1)G_0期の長さの制御(2)ホーミング先の選択があることが示された。
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