研究課題
体性幹細胞は各組織環境に存在するニッチからのシグナルによりその未分化性維持、分化と増殖が制御きれていると考えられる。しかし多くの幹細胞においてニッチそのものの本態はもとより、幹細胞の分化、増殖、細胞周期などを制御するシグナルや幹細胞の内部におけるシグナル伝達機構は不明な点が多い。角膜上皮幹細胞および造血幹細胞における機能スクリーニングからαvβ3インテグリンが静止期幹細胞の新規マーカーであることを報告した事をベースとして本研究課題では、造血幹細胞でのβ3インテグリンoutside-inシグナルが、サイトカイン依存の細胞分裂を抑制し、幹細胞をdormantな状態に維持している事を明らかにした。β3インテグリン欠損マウス、β3インテグリン細胞内ドメインY747A knock-in (KI)マウス(TyrosineをAlanineに変換したノックインマウス)からマウスの造血幹細胞(HSCs)が高度に濃縮されるCD34陰性c-Kit+Sca-1+lineage抗体陰性(CD34-6SL細胞)を調整し、野生型CD34-KSL細胞をコントロールにした様々な評価を行った。骨髄から調整直後のβ3欠損-、Y747A KI-HSCsは、放射線照射後のマウスに移植したところ骨髄再建能が野生型に比し有為に低下していた。In vivoでのBrdUの取り込み試験を行ったところ、β3欠損-HSCsではBrdUの取り込みが野生型に比し有為に亢進し(CD34+KSL造血前駆細胞では野生型と差が無い)、HSCsでの細胞周期抑制がβ3インテグリンを介した接着依存性である事が示唆された。骨髄から調整後5日間ex vivoで培養した後に移植した場合、野生型HSCsではトロンボポイエチン(TPO)およびステムセル因子(SCF)の2つのサイトカインでの維持により、移植後の骨髄生着能が上昇する。特にTPOシグナルによるHSCsの細胞分裂や細胞分化がβ3インテグリンを介した細胞外から細胞内へのシグナル伝達(outside-inシグナル)により抑制されること、この抑制機構にβ3細胞内ドメインのチロシン残基(Y747)のリン酸化が必須である事を発見した。
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