平成20年度に引き続き、細胞外環境からの影響により細胞の遊走等に関与することが報告されているケモカイン受容体CXCR4およびkisspeptin受容体GPR54について、各種分子プローブを活用した受容体活性化・不活性化に関する研究を展開した。 [ケモカイン受容体リガンドの創製と応用]CXCR4受容体の二量体形成や局在を検出するための抗体に代わる分子プローブの創製を目指し、CXCR4蛍光プローブの開発をさらに展開した。SDF-1のC末端側を各種蛍光団により標識した誘導体を用いると、受容体局在・内在化過程を明確に観察可能であることが判明し、CXCR4を介する受容体応答が極めて短時間のうちに起こっていることを見出した。また、polyphemusin由来のCXCR4拮抗剤由来の蛍光プローブを用いることで、CXCR4を高発現する膀胱癌の特異的検出が可能であることを明らかにした。これらのプローブは、歯肉中の幹細胞からの細胞の分化へのCXCR4の関与の調査をはじめとするさまざまな研究においてCXCR4受容体の検出に利用され、その有用性が実証された。 [GPR54受容体リガンドの創製と応用]KisspeptinのC末端側のペプチド鎖から改変された修飾ペプチドFTM80およびFTM145とともに、各種kisspeptin由来のペプチド類の受容体選択性を精査した。その結果、Kisspeptin類のC末端側の10残基程度ペプチドが、神経ペプチド受容体の一種であるNPFFR1・NPFFR2を活性化することを見出した。これにより、kisspeptin類の各種細胞への作用は、従来腫瘍転移に関わることが報告されていたkisspepin-GPR54の1対1対応ではなく、複数のGPCRを介する可能性が示唆された。また、kisspeptin類による細胞の形態変化やアポトーシスは、GPR54を介するRho/Rhoキナーゼ系の活性化によるものであることを明らかにした。
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