胚発生過程において、特定の細胞が、特定の時期に、特定の場所に移動することが知られている。それ故、細胞運動が多細胞生物の器官形成に必須であることは言うまでもないが、この過程は細胞外因子と細胞との相互作用により巧妙に制御されている。例えばケモカイン、脂質メディエーター、細胞外マトリックスと言った細胞外因子は細胞上の受容体やインテグリンに作用することで、細胞の運動や接着を制御する。しかしながら、細胞外因子がこのような機能を発現するためには、低分子量Gタンパク質の活性化を介した細胞骨格の再構築が不可欠である。それ故、器官形成における細胞運動を理解するには、細胞外因子の同定から低分子量Gタンパク質活性化に至るシグナル伝達機構を包括的に解析することが必要である。 CDMファミリーは線虫からヒトに至るまで保存された分子で、低分子量Gタンパク質の上流で機能することで、細胞骨格の制御に関わっている。DOCK2は免疫系特異的に発現する分子であり、Rac活性化を介してリンパ球や好中球の遊走を制御する。一方、DOCK180は非リンパ球系細胞に発現するCDMファミリー分子であり、細胞株を用いた解析より細胞運動、アポトーシス細胞の貪食、神経突起形成を制御していることが報告されているが、その生理的機能は依然として不明である。DOCK180の生理的機能を明らかにするため、我々はノックアウトマウスを作製し、DOCK180が胚発生過程の器官形成に必須であることを見出した。また、詳細な病理学的解析からその責任細胞を同定すると共に、ノックアウトマウスではこの細胞の遊走や接着が障害されていることを実証した。さらに、この細胞を野生型マウスとノックアウトマウスから単離し、種々の因子で刺激することで、DOCK180が2つの異なった受容体の下流で機能していることを明らかにした。
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